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「質問を質問で返すなあーっ!! 疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか?」
吉良吉影/ジョジョの奇妙な冒険
「どうして気分が悪くなるようなことを言うんですか?」
口の達者な利用者さんから、聞き取りの時に言われたことがありました。
「ご機嫌取りをするのが仕事じゃないからです。」
そう返したように覚えています。
そのあと、その利用者さんは、眼を見開いて興味深く話を聞いてくださいました。
支援をしていると、嫌われるようなことを言わないといけないときがあります。
就労移行支援施設に通う、利用者の皆さんは課題を抱えて訓練を受けられています。
時間が守れない。
会話に割り込んでしまう。
優先順位がつけられない。
体調管理ができない。
それぞれの課題を、必ず解決する必要があるのでしょうか?
そうは思いません。
ただ、ご本人の目指す生活を成し遂げるために、現実を見る必要はあります。
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障がい者の働き方における実態とは?
就労移行支援とは、政府の認可事業です。障害や疾病(主に精神疾患)をお持ちの方が、税金で生活を見てもらう側から、税金を納める側になっていただくための事業です。
知らない方も多いかもしれません。就労の形態とは、一般就労と福祉的就労の二つに分かれます。
一般就労には以下の3種類があります。
一般雇用(クローズ)
障害があっても、それを開示しないで(クローズ状態)で、いわゆる普通に仕事に就くことです。精神疾患や発達障害など、ハンディがあっても配慮はありません。
オープン雇用(ダイバーシティ採用)
障害があることを開示(オープン状態)で就労します。障害に対する配慮をもらいながら、障害のない方と給与面の待遇に違いはありません。
障碍者雇用
障害があることを開示(オープン状態)で就労します。障害に対する配慮をもらいながら、一般的には最低賃金のお給料で就労します。ただし、IT関連の仕事は一般就労(クローズ)とお給料は変わりません。つまり、障害のない方の平均的な給料より高いです。
福祉的就労には以下の2種類があります。
就労継続支援A型施設
最低賃金が保証された雇用契約を結び、賃金を受け取ります。週五日労働で遅刻欠勤がないことを原則的に求められ、仕事がなかなかきついというのは業界では一般的な見解です。現実的には大きな利益が出ることはあまりなく、主に税金(保険による報酬)で事業を継続することが多いです。その辺りをもって、税金で生活を見てもらう側であるとされる理由です。
就労継続支援B型施設
雇用契約を結ばず、工賃という形で指定賃金より低い収入を受け取ります。最近はe-sportsや動画編集、SNS 運用などユニークで収益性が高い鋳物も出てきています。A型と違ってあまりきつくないところが多いです。こちらも主に税金(保険による報酬)で事業を継続することが多いです。
就労移行支援契約を交わすことで発生する権利と義務
就労移行支援サービスを受けるにあたり、施設と利用者さんの間で契約を交わします。契約を交わすということは、双方に権利と義務(責任)が発生するということになります。
では、どのような権利、義務なのか?
それは、就労移行支援を受ける権利と義務です。
サービスを受け受ける契約をした場合、一般就労をするサービスを受けることができるようになる。
そして、一般就労をするサービスを受ける義務が発生するということなんです。
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利用者さんは利用者さん
「お客様は神様です」
昔の日本は、お客さんにどんな理不尽な要求をされても、すべて答えることがサービスのプロといわれていました。
ですが、カスタマーハラスメントという問題が浮き彫りにされていく中で、行き過ぎたお客さんの態度の原因は、本質的に行き過ぎたサービスにあるという認識が進みました。
これは、契約という概念が日本ではあまり理解されていないからではないかという解釈ができるからかもしれません。
サービスを受ける契約をすれば、サービスを受ける権利と義務がセットになる。
つまり、利用者さんは努力する必要があるということなんです。
「こんなに遅刻をしていたら、希望の就職は極めて難しいです。」
これは残酷な言葉に聞こえると思います。
そう思います。
ですが、就労移行支援の契約を交わした以上、私たち支援人は就労していただくように支援する義務があります。就労移行支援を受けられる期間は、2年間と有限です。その時間を過ぎて、一般就労ができなかったとき、それは支援の失敗を意味します。
「大丈夫ですよ。」
そう言って、優しい言葉をかけ続け、2年間が過ぎ、就職ができなかった。
それは、支援員として契約を果たしたといえるのでしょうか。
嫌われるのが怖い、傷つけるのが怖い、傷つけられるのが怖い。
それでも、利用者さんの心身が整っているときを見定め、現実をお伝えし、どうすれば希望する仕事に就けるかを一緒に考える。
それが、私たちの義務だと思ってお仕事をしています。
支援員は、リアリストであるべきというのが持論なんです。
「風邪をひいて連絡ができなかったんです」
無断で欠席をしたときには、病気であることを説明してくださいます。社会人として働くうえで、欠席の理由を伝えるのは重要です。
「それを繰り返せば何を言っても仮病とみなされるんです。嘘はどのみちバレるんです。会社に居場所がなくなり、仕事が長続きしないことが多いんじゃないでしょうか。何より、無断欠勤は一度しただけで信頼を失うほど危険なんです。」
それを伝える支援員は、冷たい支援員でしょうか?
寄り添っていないでしょうか?
「遅刻するあなたは悪くない。嘘をつくあなたも悪くない。遅刻や嘘を責める社会が悪いんです。」
就労する上での社会人としての常識。
それを伝えるとき、僕は必ずそれを言います。
生活ができるような収入を得るための、社会のルールは実に世知辛い。
心底そう思います。
実際のところ、ルールに縛られない働き方、会社はあるんです。こんなふに・・・
好きな時に出社して、退社する。→フルフレックス勤務、フリーランス
適当な嘘で欠勤する→潤沢な収益と既得権益のある大企業、一部ですが閑職の公務員
ミス、失敗を許す社風→GAFAといったイノベーションが起きる巨大企業
ただ、その選択肢を知らない、その選択肢が限られている。それだけです。
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余裕のない社会が、就労移行支援なんてものを創り出した。
これが僕の本音なんです。
日本はずいぶん昔から食べ物が余っています。
空き家がそこらじゅうで余っています。
もう、働かなくても飢えることはないんです。
働けない人に、働けなんてひどいことは言わなくていい社会なんです。
障害があって、仕事ができない。
素直に働きたくない。
なのに働かせる社会。
このどこが正しいんでしょう。
資本家に必要なものは労働者
資本主義社会というのは、資本家が労働者に労働を提供し、売り上げからお給料を払います。
わかりやすくすれば、中抜きをするんです。
資本家にとって、労働者は貧しく、不安に駆られ、働き続けてほしい。
そうすれば、資本家はより富めるものになれるからです。
そして、格差は開き続けます。
週5日8時間労働は、重労働。
そんな当然のことに気づく思考力さえ奪うんです。
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「会社員だから」
理不尽なことを訴えたとき、そう言われれば、労働者は沈黙するしかない。
もちろん、経営者が冷たいわけではないと思います。
労働者として汗水流す中、組織の中で本音を言えないことを学び、自分を殺して経営者になった。
その忍耐力。努力や知識、スキルは本当にすごい。
ですが、「会社員だから」この言葉は思考停止なんじゃないでしょうか。
その言葉が、今まで自分をどれだけ傷つけ、自由を奪ってきたか。
「会社員だけどこうしよう」
その思考を、奪う言葉になるときもあるんじゃないでしょうか。
「みくりやさん、年末年始はゆっくり休んでメンタル整えて」
今年最後に、経営者である上司がかけてくれた言葉です。
その言葉は優しい。在宅勤務といった勤務形態で、どうすれば働きやすいかを話し合い、対応してくれた。
自分は恵まれた経営者の下で働いている。
それを忘れているときがある。
仕事締めの大掃除、「どうして気分が悪くなるようなことを言うんですか?」といった利用者さんが、真っ先に僕の席を掃除してくださいました。
就職が決まった口数の少ない利用者さんが、最後に感謝を伝えてくださいました。不器用な方なのに、とても豊かな語彙で感謝の言葉をくださった。
最近利用を開始された方が、みんなが帰っていく中、まっすぐに僕を見て、「向いている方向は違うかもしれませんが、近しい考えの方だと感じました。」そう言って、深々とお辞儀をくださった。
こんな傲慢な僕に、そんな価値がある。
いつか僕は、会社員じゃなくなるかもしれない。
もしかしたら、それは遠い未来ではないかもしれません。
ただ、目の前にあるこの幸福を、簡単に捨てることができません。
仕事に対して、どうしても納得のいかないことがある。我慢することが本当につらい時がある。
医師から長らく休職を勧められていても、どうしても休みたくない気持ちがある。
言葉にすることのできない、何かが心の中にある。
いまは決断する時期じゃない。
2023年。
マネージャー、皆さん、社長、そしてお父さん。
今年も一年お世話になりました。来年もよろしくお願いします。
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